トレンチ調査技術
関東平野北西縁断層帯・櫛挽断層のトレンチ調査 - 掘削が完了したトレンチ -
活断層の「痕跡」を直接発掘する
活断層のトレンチ調査は、地形調査や反射法探査などの情報をもとに選ばれた、活断層の通過地点や活断層の活動が記録されていると考えられる地点で、深さ数m~10m程度の溝(トレンチ)を掘削して行われます。
その断面に現れた地層の詳細な観察を行い、その結果とサンプリングされた年代データ試料(放射性炭素年代、考古遺物、火山灰など)に基づいて、活断層の活動履歴や変位量などを明らかにします。このようにして得られた活動履歴や変位量は、発生する地震の頻度や規模を推定する際、極めて重要な決め手となります。
事例 関東平野北西縁断層帯・櫛挽断層トレンチ
関東平野北西縁には、高崎市・本庄市・深谷市・熊谷市の南西側に主要部だけで長さ70Kmに達する活断層帯があります。櫛挽断層はその一部になります。
以下、当社が行ったトレンチ調査の一例として「櫛挽断層トレンチ調査」をご紹介します。
第1図. 関東平野北西縁断層帯を構成する断層帯及び断層とトレンチ調査地点.
反射法探査・地形調査や群列ボーリング調査の結果から、断層の通過予想地点を割り出し、長さ約12m・深さ3mのトレンチを掘削しました。その結果(下 第2図)、明瞭な活断層の露頭を直接確認することが出来ました。
第2図. トレンチの壁面の写真. (▲ クリックで拡大図をご覧いただけます)
トレンチ壁面の詳細な観察・スケッチを実施して、地層の区分・地質の構造・変形や断層の有無などを判定・記録します。その上に放射性炭素年代測定結果を重ねたものが、下の第3図になります。
第3図. トレンチの壁面のスケッチ. (▲ クリックで拡大図をご覧いただけます)
「放射性炭素年代測定結果」と「断層によって変位した地層」を対比した結果、過去4万年間に3回の断層の活動イベント(イベント Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)が確認されました。(下図)
このうち最新のイベントⅠは約6000年前に発生したと考えられ、このイベントに対応する活動は関東平野北西縁断層帯に属する他の断層の調査結果にも認められています。それにより、関東平野北西縁断層帯が広い範囲で同時に活動して地震が発生した可能性があることが分かります。
この成果は、政府の地震調査研究推進本部の活断層の評価にも取り入れられています。
第4図. 関東平野北西縁断層帯を構成する各断層の活動時期.
引用文献:
新谷加代・福地亮・家村克敏・宮脇理一郎・宮脇明子・杉山雄一(2009) 関東平野北西縁断層帯・櫛挽断層のトレンチ調査. 活断層・古地震研究報告, 産業技術総合研究所地質総合センター,No.9 p.113-133