自然災害シミュレーション解析技術
ルソン島のマヨン火山の火砕流 Photo by USGS.
シミュレーション解析技術(自然災害予測の重要性)
自然豊かな日本には、様々な地形が存在します。豊かな山林、地盤には多くの活断層、火山が多く存在します。自然の動きの仕組みを知るとともに、私たちの生活にとって災害という形で訪れる自然現象を予測するシミュレーション解析技術が防災の観点からも重要になっています。
より精度の高い予測を立てる為、阪神コンサルタンツでは、シミュレーション解析技術向上に、真摯に取り組んでいます。
このページでは、当社の「シミュレーション解析技術」から、
「地震による津波のシミュレーション」
「山体崩壊による津波シミュレーション」
「火砕流シミュレーション」
「火山灰シミュレーション」
4つのシミュレーション解析技術について順に、ご紹介します。
地震による津波のシミュレーション
海域で生じる大きな地震に伴い発生する津波が沿岸部に押し寄せる事で社会に甚大な被害を与えます。特に東日本大震災での甚大な津波被害は記憶に新しいところです。
当社では震源断層モデルから発生する津波の規模を想定し、津波の到達時間と浸水範囲をシミュレーションで予測します。
阪神コンサルタンツが実施する津波シミュレーション解析の特徴として、
「河川沿いの遡上現象が再現できること」、
「浸水域の各地点において流速と方向を再現できること」の2点があります。
高精度シミュレーションで作成した予想浸水図は津波のハザードマップおよび避難計画の作成や地域防災計画の見直しの資料として活用することができます。
■ 高精度な津波のシミュレーション 事例
以下のシミュレーションでは,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の震源断層モデルを用いて、宮城県仙台市が津波に襲われた時の様子を再現しています。
左図は津波の浸水範囲のシミュレーション結果を航空写真に重ねた図です。図内の赤線は実際に浸水した範囲を示しています。
浸水範囲をシミュレーション解析(予測)した結果と実際に浸水した範囲が一致している部分が多いことがわかります。
右のグラフは計算で推定した仙台新港(図1☆印)地点の水位の経時変化を示しています。実際の被害を現地調査した結果から、高さ約7.2mの位置まで浸水した事がわかっています。つまりシミュレーション解析の結果が、かなり正確に水位の変化をとらえていると言えます。
■ 津波のシミュレーション解析結果から動画イメージを作成
右の動画は地震が発生してから津波が沿岸部を襲う過程を鳥瞰図で示しています。津波は遡上後でも海岸沿いの内陸部で時速14.4kmとかなり早い速度を保っています。
動画イメージを作成する事により、視覚的に津波の挙動を把握する事ができます。
山体崩壊・岩盤すべりによる津波シミュレーション
津波と言えばその原因は地震と考える、これは東日本大震災の記憶がまだ生々しい今、ごく自然な考えです。しかし過去観測された遡上高さの最大値524mをもたらした津波の原因は、山体崩壊(岩盤すべり)です。また我が国でも江戸時代の寛政4年(1791年)九州の島原半島の雲仙普賢岳の噴火にともない眉山の山体が崩壊して,有明海に突入し津波を発生し対岸の肥後(熊本県)に死者15,000人の大被害をもたらし「島原大変肥後迷惑」と呼ばれた事例があります。
このような山体崩壊を原因とする津波のシミュレーションは、山体崩壊の動的シミュレーションと津波のシミュレーションを別々に実施するのが一般的です。
当社においても山体崩壊(岩盤すべり)をLS-RAPID,TITAN2Dなどの解析コードでシミュレーションし、その結果を津波の解析コードの入力に引き渡す2段階のシミュレーションを実施しています。
- LS-RAPID解析事例
- LS-RAPIDは地すべり挙動解析に特化して開発されたプログラム。 地すべり挙動に対する高い解析精度が特長。
しかし岩盤の運動量と海水のダイナミックな相互作用を直接取り扱う、山体崩壊と津波の一体となった3次元のシミュレーションはより高度な技術力を必要とします。以下にその問題に対してFLOW-3Dコードを用いた当社の解析事例を紹介します
■ FLOW-3Dによる山体崩壊津波シミュレーション事例
まずは動画による山体崩壊(岩盤すべり)津波シミュレーション結果をご覧ください。
このようなシミュレーション結果は山地や火山が海岸線に迫っている我が国において、地震津波以外の災害ハザードを評価する際に役立ち、防災計画や避難計画の策定の資料となります。
・上記動画 山体崩壊(岩盤すべり)津波シミュレーション結果について
次に動画中、具体的にどういう現象が起こっているのか、「1.地すべり発生前」「2.地すべり崩壊状況」「3.地すべり津波発生状況」の3点にポイントを絞って、ご説明をいたします。
このシミュレーション解析では、ある海岸沿いに分布する地すべり領域が崩壊した場合の、隣接沿岸地点の水位変化状況を予測しています。
- 1.地すべり発生前
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□解析条件 地すべり地塊規模 L=680m×W=360m,
V=5,840,000m³解析平面規模 X方向=5km,Y方向=3km 地すべり地塊分割数 N=42個 移動地塊モデル 剛体としてモデル化(GMOモデル) - 2.地すべり崩壊状況
- 細片化された地すべり地塊がそれぞれ独立的に滑動し、海中に突入する様子が示されています。
- 3.地すべり津波発生状況
- 海中突入後も地すべり地塊片は滑動し、水面変形に影響を及ぼす様子が示されています。
火砕流シミュレーション
日本列島に100以上の活火山が分布しています。火山活動は素晴らしい景観や温泉など豊かな恵みを我々に与えてくれる反面、一度噴火すると広大な範囲に様々な災害をもたらします。そのような噴火災害の中でも最も恐ろしいものの一つに火砕流があります。
火砕流は噴火に伴って高温の火山灰・火山礫・軽石・火山岩塊等の火山砕屑物が火山ガスを伴い火山周辺の斜面を高速で流れ下る現象です。
火砕流の流れ下る範囲をあらかじめ予測する「火砕流シミュレーション」はハザードマップを作成する上で有力な基礎資料となる解析技術です。
当社では、ニューヨーク大学バッファロー校開発の解析コードTITAN2Dを用いて、全国の火山で火砕流シミュレーションを実施してきました。シミュレーションの実施にあたって最も必要なデータは、対象火山の地形を数値化した数値標高データ(DEM)、および綿密な地質踏査等にもとづいて推定された噴出量の予測量になります。
■ 火砕流のシミュレーションと、火砕流分布図(地質踏査結果)の比較
以下に示した実例は有名な日光のシンボルとも言える男体山(2486m)約1万5千年前の大噴火における火砕流のシミュレーションと地質踏査の結果得られている実際の火砕流分布を比較したものです。
次図は、地質踏査によって実際に得られた火砕流の分布図です。二方向に分かれて流下する特徴が見られます。
- ○地質踏査による火砕流分布図
ボーリング調査などを基にして噴火が起こった1万5千年前の復元地形データを作成して、TITAN2Dを用いて実施した火砕流(軽石流)のシミュレーションの結果を次に示します。二方向に分かれて流下する実際の分布とよく一致した軽石流の分布範囲が再現されました。(噴出量2.4立方Km)
- ○火砕流のシミュレーションの結果
男体山は現在気象庁の指定する活火山に含まれていません。しかし最近富山大学の研究者によって山頂付近で約7,000前の噴出物が発見されました。これにより活火山と認定される可能性が出てきました。その際にはハザードマップの作成に当たってこのようなシミュレーションが実施されることでしょう。
火山灰シミュレーション
Photo by Smithsonian Institution.
火砕流とともに見過ごしてはならない火山災害の一つに降下火山灰災害があります。火山灰災害は、火砕流より広域に影響を及ぼす恐れが大きいことが特徴です。
下図1は、ニカラグア共和国のセロ・ネグロ火山(写真参照)の噴火に伴う降下火山灰の堆積量分布を再現解析した結果です。図2に示す風向・風速の下で火山灰噴出量V=0.03km³(火山爆発指数VEI=3)規模の噴火が発生した場合の、火山灰堆積量分布(単位体積当たり重量)を示しています。こうした降灰シミュレーションは、火山のハザードマップ作成等に有効活用されます。
※上図をクリックすると拡大図をご覧いただけます。